第二章

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「え~? 音楽室の幽霊って何ですか~?」  一人の女子生徒が興味深げに訊いた。 「何だ、知らんのか? ……実はなあ──」  教師は嬉しそうに不敵な笑みを浮かべ、語り始めた。  音楽室の怪談話によって授業は中断。幸い、切りも良く、授業時間終わり際だった為、大した支障はないと教師は判断したのだろう。  音楽室の他、美術室や体育館の怪談話も語られ、『怖ェ~』やら『嘘臭~い』やら様々な声が上がった。  やがて終業のチャイムが鳴り、教師が出ていく。次いで、移動教室なので、生徒は皆ざわざわと教室を出ていった。  しかし薫だけは教科書を仕舞うこともせず、机の上に放りっぱなしで、ある場所に向かって爆走した。 「ちょっと……薫~!?」  自分を呼ぶ声に気にも止めない薫に、美咲の声は虚しく床に落ちていった。  心地好い陽気、さらさらと爽やかな風が吹くこの季節。  ところが、この学校では、生徒が行き交う廊下に木枯らしの如く突風が吹き、階段に上昇気流が発生するという異常気象に見舞われた。  後、皆は一様に『校舎内で初めて猪を見た』と語る。  美咲が三階の教室から中庭を見下ろすと、まさしく猪突猛進、砂埃を立てながら小山へと消えていく薫のような猪……ではなく、猪のような薫が見えた。
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