第二章

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   ◆   ◆   ◆  慶條高校の中庭にある一つの小山──名は『狸山』。通称『タンタン山』とも呼ばれ、かつて狸が住み処にしていた山であることから名付けられた。  中心には小さな祠があり、狸の神様を祀っている──らしい。いつ、誰が、どうして、この祠を建てたのか伝えられておらず、未だ不明である。  しかし、一度、子供が誤って祠の屋根を壊したことがあった。その翌日、この地域に大規模な土砂崩れや洪水という災害に見舞われた。祠を壊したことによる神の怒りと人々は恐れ、怒りを鎮めるよう願いながら祠を直した。  それ以降、誰も祠に触れることはなく、大規模な災害も起きていない。  薫は祠の前で大きく息を吸った。 「瑳狐──!!」  狸山に怒号が響き渡った。  ガサガサと枝葉が音を立て、何かが落ちてきた。ドサッ、と落葉の上に落ちたそれ。 「……いったいわ~。喧(やかま)しいで~? 薫」  狸山に狐が現れた。  後頭部を擦り、文句を垂れる瑳狐。彼の頭にはトレードマークである狐のお面が無い。  ──と思いきや、上から白いものが落ちてきた。  カコン、と瑳狐の頭にそれが落下し、一拍。彼の涙ながらの悲痛な叫び声が狸山上空に広がった。
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