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「全く……何でここにいるの」
薫は仁王立ちで瑳狐を見下ろした。目尻に涙を溜める彼は、グスグスと鼻を啜っている。
「しゃあないやん。鶸が言(ゆ)うとったんやろ? 学校に妖怪がおる~っちゅうて」
せやから……、と瑳狐は俯いていく。
「……瑳狐……」
心配して来てくれたことを知らず、怒鳴ってしまった。……謝らなければ。
「瑳狐、ごめ──」
「転校生、なかなかの美少年ですわね」
薫は固まった。
……何ですと?
謝ろうとした矢先、頭上から声が降ってきた。声の主はふわふわと二人の下に降りてくる。
「あら、薫。授業は宜しいのですの?」
彼女の姿を認めるや、薫は再び瑳狐を見下ろした。その目に温かさはなく──。
「薫、狐は化けるんや」
「……で?」
だから何だ。つまり、嘘付きだと開き直ったということか。
その時瑳狐には、自分を見下ろす薫が鶸に見えたと言う。
「……鶸様の仰るように、妖怪の気配は致しますわね。それも近く──」
「え? ホント?」
早雪の言葉に振り返った薫は、いつもの薫に戻っていた。それに瑳狐は安堵の溜め息を溢す。
「……でも、おかしいのですわ。その気配は強くなったり、弱くなったり……こうして此処に居ても、それは変わりませんの」
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