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「……それって、移動してるから──とかじゃなくて?」
人の気配だって近いと強いし、と薫は首を傾げた。
「それはちゃうやろ。普通、授業中にあちこち歩き回らんで?」
瑳狐の言葉に、薫は一瞬止まった。
……授業中?
「授業始まってますわよ」
「…………嘘ぉおおお──!!」
薫はすかさずポケットから携帯電話を取り出した。時間は──十一時二十分。途端薫は目を見開いた。叫び、そして頭を抱えた。
完全にサボリだ。
(うわぁぁ~人生初。これで私も不良の仲間入り……)
ごめんなさいお母さん。わざとじゃないの。
その時、悶々とする薫を憐憫(れんびん)の目で見ていた早雪と瑳狐が、突然校舎を見上げた。
「…………力、使いよった」
◆ ◆ ◆
パキッ、と彫刻刀の刃が折れた。小さな欠片が横にいた一人の女子生徒の目を掠り、カラン、と床に落ちる。
「っ……!」
傷付いた目から溢れ出る紅い血に、周りの生徒が悲鳴を上げた。
「浅香さん!」
美術教師が慌てて彼女に駆け寄り、綺麗な布で彼女の目を押さえる。
「い、たい……痛い……」
「保健の先生を呼んで! それから担任の先生も! 早く!」
「「はい!」」
教師の指示に二人の生徒が教室を勢い良く出ていった。
「……せ、先生……」
自分の彫刻刀のせいで彼女を傷付けたことに罪悪感と恐怖を駆られた男子生徒は、恐る恐る教師に訊ねた。
「事故よ。相模(さがみ)くんのせいじゃない」
男子生徒を落ち着かせようとして教師は優しく言ったものの、やはり彼は俯いて震え続けた。
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