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「千春……」
布で目を押さえ痛みに蹲る千春に、美咲が寄り添い声を掛ける。
布は直ぐに紅く染まってしまう。生徒が美術室にある清潔な布を次々と持ってきては、まだかまだかと保健医を待つ。
新しい布がまた紅に染まる。
「浅香さん!?」
保健医と担任の教師が駆け付けた。担任は状況を視認するや校長に連絡を取り、救急車を呼ぶ。その間保健医は、持ってきた医療用具で応急措置を施した。
止まることを知らず、ぽたぽたと滴り落ちる紅い血。美咲は、顔面蒼白になりながら千春を見やった。
「千春……」
彼女の顔から血の気が引いていく。
十分程が過ぎた頃、救急車が駆け付けた。待機していた教師に案内されて、救急隊員が美術室へとやって来た。
隊員は千春に改めて丁寧に応急措置を施し、彼女を担架に乗せ、救急車へと運んで行った。
運ばれて行く千春を見送る美咲の肩を、不意に誰かが叩いた。
「大丈夫。大丈夫だろ」
振り返ると、それは恭介だった。彼もまた運ばれて行く千春を見ていた。
救急車のサイレンが学校から遠ざかっていく。やがて、生徒達が美術室の後片付けをし始めた。雑巾で紅い血の水溜まりを拭き取る。紅くなった雑巾が次々と捨てられていく。
その時、一人の生徒の口許が歪んだ──。
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