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力を使ったとはどういうことか──瑳狐の答えを聞いた薫は急いで美術室に向かった。
今は選択授業。
音楽、技術、美術の内、一つを選び、一組から四組までが同じ時間に授業を受ける。
薫は美術を選んだ。同じクラスの美咲、一組の恭介、二組の千春も美術を選び、同じ時間になった。
薫が駆け付けた時、美術室はしんと静まり返っていた。皆、何をする訳でもなく、適当に座っている者もいれば、茫然と立ち尽くしている者もいた。その誰もが彫刻刀を手にしていない。
髪が乱れた薫の姿を認め、美咲は目を見開く。
「薫、何処行ってたの!?」
「ちょっと……。美咲、何があったの?」
瑳狐達に会っていたなどと言える筈がない。
「千春が……千春が……」
美咲は「千春が」を繰り返すだけで、それ以上の言葉は紡がれなかった。
「彫刻刀の刃が折れて、千春の目に当たったんだよ」
見兼ねた恭介が代わりに説明した。
「彫刻刀が!? それで、千春ちゃんは!?」
「血が一杯出て……救急車で病院に運ばれて行ったよ」
薫は言葉を失った。美咲達に何も無ければ良い、そう思っていた。しかし、こんな惨事になってしまった。
これも妖怪の仕業だろうか。だとしたら、何て悪質な……。
すると、一人の生徒が一歩前に出た。
「折れたの、俺のなんだ……」
相模は握られた手を差し出した。ゆっくりと手が開かれる。掌の上には、先の折れた彫刻刀。その切り口はまるで磨かれたように綺麗だった。
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