序章

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 神泉苑の外にいた野次馬も、陰陽師達の攻撃が効かないと分かると大半が逃げ出した。経と楽と舞も全く揃わず。目の前の異形に恐れを抱き、只々音を出すだけで精一杯という感じである。異形が自分達に一歩近付く度、音が大きく外れ、白拍子は足をもつらせて床に転がる。  人々は期待した。  最後の希望を──。  そして遂に。 「お下がり下さい」 「晴明様!」  稀代の陰陽師と謳われた安倍晴明が立ち上がった。神泉苑の入口から現れた安倍晴明は咒(じゅ)を唱え、九字を切りながら影に近付いていく。 「青龍、白虎、朱雀、玄武、空陳、南斗(なんじゅ)、北斗、三台(さんたい)、玉女」  影が晴明に対して巨大な腕を伸ばす。 「はあッ!」  晴明が最後の九字を切る。空中に光輝く五芒星が現れた。晴明を捕らえようと伸ばされた腕は、五芒星の結界に阻まれる。 「くっ……!」  バチバチと閃光を放つ五芒星は、影の力に押され、その形を崩していく。 「晴明様!」 「晴明殿!」 「晴明!」  苦戦する彼に、彼の弟子や上官が声を掛ける。しかし、それ以上は踏み込まない。自分達が一斉に掛かっても全く歯が立たぬ上に、彼の力ですら黒い影に敵わない。  どうすれば……。  そう思った、その時。 「現(あき)つ神、降りしませ」
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