第二章

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   ◆   ◆   ◆ 「千春~大丈夫?」  そして放課後、薫達は市内にある慶西総合病院に入院中の千春を訪れた。  千春は、突然の薫達の訪問に嬉しそうな顔でガバッと上体を起こした。余程退屈していたようだ。 「大丈夫、大丈夫~」  明るく答えた千春に皆安堵の表情を浮かべた。 「目、大丈夫?」 「眼球は傷付いてないから、失明の心配はないって。まあ、大事を取って一週間は入院らしいよ」  つまんな~い、と不満を述べる彼女の左目には何重にも包帯が巻かれている。 「そう思って、これ──」  美咲が鞄の中から取り出したのは数冊の本。『謳われし少女』、『世界の七不思議』、『涙のあとに』、『よく解る数学』。 「これは返却」  ベッドに並べられた本のタイトルをサッと見た千春は、その内の一冊を素早く突き返した。  ……『よく解る数学』。  ちっと、美咲の舌打ちが落ちる。 「しっかし、彫刻刀が折れるなんてな~。あれ、新品だろ?」 「そうそう。以前のは十年近く経ってたからって……」 「警察の調べはどうなってるんだろ」 「彫刻刀、回収したんだろ?」 「一日で分かるものじゃないよ」  眉尻を下げながら言った聖は、サイドテーブルの上にある花瓶を手に取った。花、生けてくるね──と言って、自分達が買ってきた見舞いの花を持って病室を出ていった。 (……あれ?)  薫はふと、違和感を覚えた。
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