第二章

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 花瓶を手に病院の廊下を歩く聖は、不意に足を止めた。  目の前で、松葉杖を落とした少女が廊下の手摺に捕まり、それを取ろうとしている。しかし、少女はそれに届かない。  少女の足にはギブスが嵌められており、首も補強されていた。下を向けない為か、松葉杖が見えないのだろう。  聖は少女に歩み寄った。 「はい」  足下に落ちている松葉杖を拾い上げ、少女に渡す。少女はありがとう、と言って直ぐ近くの病室に入って行った。  それを見届けると、聖は今しがた出てきた病室の方を見やった。微かに薫達の笑い声が聞こえる。  数拍の後、フッと鼻で笑い、水を入れ換えにトイレへと向かった。    ◆   ◆   ◆  その頃、ビルの間──薄暗がりの路地裏に一つの影があった。  ウウウ、と唸る金の瞳を持つそれは、まるで獲物を狙い定めるかのように一つの病院を見詰めていた。  その背後にある冷たいアスファルトやビルの壁を巨大な影が覆い、その形を定めず揺らめいている。  人々がビルの前を通り過ぎていく。しかし、彼らはその存在に気付かない。  やがて、それはビルの影にすぅっと溶け込んで行った。
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