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花瓶を手に病院の廊下を歩く聖は、不意に足を止めた。
目の前で、松葉杖を落とした少女が廊下の手摺に捕まり、それを取ろうとしている。しかし、少女はそれに届かない。
少女の足にはギブスが嵌められており、首も補強されていた。下を向けない為か、松葉杖が見えないのだろう。
聖は少女に歩み寄った。
「はい」
足下に落ちている松葉杖を拾い上げ、少女に渡す。少女はありがとう、と言って直ぐ近くの病室に入って行った。
それを見届けると、聖は今しがた出てきた病室の方を見やった。微かに薫達の笑い声が聞こえる。
数拍の後、フッと鼻で笑い、水を入れ換えにトイレへと向かった。
◆ ◆ ◆
その頃、ビルの間──薄暗がりの路地裏に一つの影があった。
ウウウ、と唸る金の瞳を持つそれは、まるで獲物を狙い定めるかのように一つの病院を見詰めていた。
その背後にある冷たいアスファルトやビルの壁を巨大な影が覆い、その形を定めず揺らめいている。
人々がビルの前を通り過ぎていく。しかし、彼らはその存在に気付かない。
やがて、それはビルの影にすぅっと溶け込んで行った。
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