第二章

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   ◆   ◆   ◆  暫く千春と雑談していると、東の昊が紫紺に染まり始めた。  千春と別れ、病院を出た薫達。振り返ると、病室の窓から千春が手を振っているのが見えた。薫もまた手を振り返し、病院を背に歩き始めた。  千春はゆっくりと手を下ろした。談笑しながら帰って行く薫達を、目を細めて見えなくなるまでじっと見つめていた。  帰路につく薫達。 「あれ、ここ……何か出来るのかな?」  途中、工事現場で足を止めた。灰色のシートに囲まれ、中は見えない。しかし、仕切りの壁に掛けられている看板には、イメージとして十階建てマンションの絵が描かれていた。  緑が溢れ、正面には公園がある。親子が一緒になって遊んでいる様子も描かれている。 「立地条件良いな」  この辺りは主要駅が近い。徒歩十分位である。 「高そう……」  薫はぽつりと呟いた。今、自分が住んでいる家も比べものにならない位高いのだが。  カンカンと鉄を叩く音が聞こえる。入口からは作業員がせっせと鉄パイプを運んでいるのが見えた。 「ペット可、だって」 「だから、犬も描かれてるのか」  マンションに向かって犬を連れ込んでいる女性も描かれていた。 「危ない!!」  突然、聖が叫んだ。
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