529人が本棚に入れています
本棚に追加
◆ ◆ ◆
暫く千春と雑談していると、東の昊が紫紺に染まり始めた。
千春と別れ、病院を出た薫達。振り返ると、病室の窓から千春が手を振っているのが見えた。薫もまた手を振り返し、病院を背に歩き始めた。
千春はゆっくりと手を下ろした。談笑しながら帰って行く薫達を、目を細めて見えなくなるまでじっと見つめていた。
帰路につく薫達。
「あれ、ここ……何か出来るのかな?」
途中、工事現場で足を止めた。灰色のシートに囲まれ、中は見えない。しかし、仕切りの壁に掛けられている看板には、イメージとして十階建てマンションの絵が描かれていた。
緑が溢れ、正面には公園がある。親子が一緒になって遊んでいる様子も描かれている。
「立地条件良いな」
この辺りは主要駅が近い。徒歩十分位である。
「高そう……」
薫はぽつりと呟いた。今、自分が住んでいる家も比べものにならない位高いのだが。
カンカンと鉄を叩く音が聞こえる。入口からは作業員がせっせと鉄パイプを運んでいるのが見えた。
「ペット可、だって」
「だから、犬も描かれてるのか」
マンションに向かって犬を連れ込んでいる女性も描かれていた。
「危ない!!」
突然、聖が叫んだ。
最初のコメントを投稿しよう!