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◆ ◆ ◆
美咲達と別れ、深山家の山に足を踏み入れた途端、薫は膝を付いた。
「……薫、捻ったじゃろ」
縫いぐるみと化していた狗燎が心配して声を掛ける。ここまで来れば誰にも見られる心配はないだろう。薫は彼を解放した。
「……わしに乗れ」
そう言って狗燎は宙で一回転した。すると、瞬く間に体長二メートル程の大きな狗へと変化した。
金毛に覆われ、四肢と尾は黒い焔を纏い、口には大きな牙、そして額には透明な螺旋状の一本の角が生えていた。
「久しぶりに見た気がする」
狗燎がそっと目を開けると、紅い瞳を覗かせた。
「……そうだな。新学期が始まって暫くは、遅刻だと叫んでは我に乗っていたからな」
「口調まで変わるのが不思議でならないんだけど……」
「…………気にするな」
狗燎は目を逸らした。
「……立てるか」
狗燎は乗れと言うように体を伏せた。
「うん、ありがと」
薫が自分の背に跨がったのを確認すると、狗燎は地面を踏み込んで高く飛び上がった。木々の隙間を通り抜け、一気に周囲の山々が見下ろせる高さへ。
長く続くロープウェイが見える。しかし、動いていないようだ。今は誰も使っていないのだろうか。それとも、徒歩だろうか。
下りは比較的楽な為、隣に備え付けられた奥行きの広い階段を使う者もいる。時々、地元の住民が運動がてらに階段を往復しているのを見掛ける。
しかし、今日はまだ一人もいないようだ。
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