【廃屋から見上げる蒼】

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高校入学以来香奈と親しくしている卓を、僕は案外気に入っていた。 香奈と四六時中行動を共にしている所は、勘に触らないわけではなかったが。 「愛海は?先にカラオケ行ってるの?」 もう一人の香奈の連れがいないことを疑問に感じ、僕は尋ねる。 卓はまだ火照りの残る顔を片手であおぎながら、思い出したように答えた。 「そっそうそうっ。俺、ちょっと用事があってさ。他の奴らと一緒に、先に行ってもらったんだ」 「用事?すんだの?」 まだこれから、と言い掛けて、卓はくるりとこちらを振り向いた。 「そうだ!シュージ付き合ってくんない?」 やけに顔を輝かせる卓に、僕は首を傾けた。 ◆ 「シュージ、ちょっと待ってくれよぅ」 細身とは言え筋肉質の長身を縮こまらせて、卓が情けない声を上げる。 「早く見つけないとカラオケ終わっちゃうよ」 入り口付近のバリケードを抜けてから歩みの進まなくなった卓を振り向いて、僕は言った。
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