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その頃既に、ここはこんな風に荒れ果てていて。
卓から視線を外し、僕は辺りをぐるりと見回す。
ひび割れて曇ったガラス越しの陽光は頼りなく、ガラクタだらけの廊下を薄ぼんやりと照らしていた。
歪な形に傾いだ格子窓の向こうに見える冬の空だけが、やけに鮮やかな蒼に見える。
僕は瞳をすがめ、微かに笑んだ。
そう。
あの日も、こんな風によく晴れた、寒い日だった。
◆
「ねぇ、シュージ。勝手に入ったら怒られない?」
小学校からの帰り道。
ランドセルを背負ったままで、僕らはここに入り込んだ。
大学の広い敷地の隅にある、お化け屋敷と呼ばれる建物。
そこにめったに人が来ないことは、以前から知っていたから。
「ヘーキだよ」
でも、と口籠もる香奈に、僕は瞬いて見せた。
「怖いの?カナ」
「まさかっ!なーんだ!お化け屋敷とか言っても大したことないじゃんっ」
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