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不自然な大声を上げた香奈は、先を進んでいた僕を大股で追い越した。
僕は笑いを噛み殺しながら後に続く。
そして次の瞬間。
暗い廊下を進む香奈の後ろ姿が、ふいに僕の目の前から消えた。
「カナ!?」
「…痛ぁ~」
慌てて視線を下ろせば、そこには、踏み抜いた床に片足を取られた少女。
「大丈夫!?」
「…シュージぃ」
鼻声で僕の名を呼びこちらを見上げる香奈の足を、僕はそっと木片の間から抜き出す。
細いばかりの脛には、幾筋もの赤い傷が走っていた。
「…家に帰って消毒しなきゃ」
「いやっ!!」
弾かれたように叫ぶ香奈に、僕は苦笑する。
家には帰りたくない。
…それは、僕も一緒だった。
小5の冬。
既に僕らには、安らげる家などありはしなかった。
「立てる?もうちょっと明るい所で、傷見た方がいいよ」
「…うん」
痛そうにびっこを引く香奈を抱き抱えて、僕は手近な部屋へ入った。
「足下気を付けて」
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