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その痛みを少しでも早く取り除いてやりたい。
…最初、僕は確かにそう考えていた。
「…んん…っ」
けれど。
僕に触れられる度に上がる、彼女の声が。
彼女の躯の動きに合わせて揺れる、黒髪が。
白い脚を彩る、鮮やかな赤い傷痕が。
肩に食い込む、爪の感触が。
僕の中に潜む何かを、揺すぶり起こしてしまいそうで。
僕はにわかに駆け出す動悸に眩暈を覚えながら、その行為に、ただ、没頭した。
「…はい、いいよ」
血の滲む傷口にハンカチを結び終えると、僕は固く握られた香奈の両手をポンポンと叩いた。
「えっ?あ、うん」
香奈は我に帰ったように瞬くと、差し出していた脚を引っ込めた。
「ごめん。痛かったね」
大きく息を吐いてからそう言って立ち上がると、香奈はううん、と首を振る。
「ヘーキ。ありがと」
未だ涙の残る瞳を細めて、香奈は微笑んだ。
格子窓から差す柔らかな日差しを浴びたその笑みは、本当にキレイで。
だから、僕は。
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