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歩く速度を緩めない私の隣に駆け寄り、修二はこちらを覗き込む。
「どうだった?」
「何が?」
「デート」
「…別に。いつもとおんなじ」
緑に覆われた崖と竹林の間の下り坂を、私と修二は短い言葉を交わしながら歩いた。
民家も街灯も少ないこの坂を下り切ると、川沿いの林に出る。
自宅への帰り道には少々遠回りなこの場所は、昔から私と修二の秘密の遊び場だった。
「何であそこで待ってたの?」
道端の花を眺めながら、私は修二に問い掛ける。
「だってカナ、他の男と会ってきた日は絶対、この道通るから」
「そう…だっけ」
修二は、私をよく知っている。
だから私は、修二の顔を見ることが出来ない。
全てを、見透かされてしまうから。
そんなことは無駄な足掻きなのだと、知ってはいたけれど。
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