【高架下から望む朱】

8/9
前へ
/71ページ
次へ
冬枯れてなお緑濃い閑道を抜けると、古びた高架橋の下にたどり着いた。 その先を右に折れると数軒の民家が、左に折れると川沿いの小道に出る。 「キス…したよ。その人と」 唐突に呟くと、修二は少しだけ間を置いて、それでも落ち着いた声音で問い返してきた。 「どうだった?」 「おんなじだよ。…他の男とするキスは、みんなおんなじ」 緑の中に佇む高架橋は、傾いた陽を浴びて暗く沈んでいる。 その中程で立ち止まった私には、こちらを振り返った修二の表情がよく分からないほどに。 「シュージ」 名を呼ぶと、修二はその場に立ち尽くしたまま、小さく、うん、と頷く。 遠くから、列車が近付いてくる音が聞こえた。 「しよ」 手を伸ばせば、修二はいつも通りこの手を取ってくれる。 その広い肩が私の視界を塞いで、世界は甘い闇に堕ちた。
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加