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冬枯れてなお緑濃い閑道を抜けると、古びた高架橋の下にたどり着いた。
その先を右に折れると数軒の民家が、左に折れると川沿いの小道に出る。
「キス…したよ。その人と」
唐突に呟くと、修二は少しだけ間を置いて、それでも落ち着いた声音で問い返してきた。
「どうだった?」
「おんなじだよ。…他の男とするキスは、みんなおんなじ」
緑の中に佇む高架橋は、傾いた陽を浴びて暗く沈んでいる。
その中程で立ち止まった私には、こちらを振り返った修二の表情がよく分からないほどに。
「シュージ」
名を呼ぶと、修二はその場に立ち尽くしたまま、小さく、うん、と頷く。
遠くから、列車が近付いてくる音が聞こえた。
「しよ」
手を伸ばせば、修二はいつも通りこの手を取ってくれる。
その広い肩が私の視界を塞いで、世界は甘い闇に堕ちた。
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