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ヤーナはイザの警告、ヘラの心配をよそにどこの街なら秘密裏に処理してくれるだろうかと考えていた。身勝手なことだと分かっていたが、妊娠したという事実をどうしても受け入れられず、母親になる気などさらさら無かった。
「もう決めた。口を挟むな」
イザはまだ食い下がった。ヤーナの身を危険に晒すわけにはいかない。
「やめなって言ってるじゃないか。聞いてちょうだいよ。やったことあるから言ってるんだ。これ以上行くっていうなら、外へ出て行って大声で皆に……」
ヤーナはため息をついて折れた。仕方ない。
「言うな、分かったな」
イザは昼餉の用意をしに出て行った。ヘラはこんなに茫然自失しているヤーナを見たことがなかった。貧血で倒れる寸前のような白い顔、心労のくま、艶を失った黒髪。愛した男は腹に子供を残して行方不明、部下の手前勇ましくあらねばならぬという強迫観念、全ての圧力に押し潰されて消えてしまいそうに見える。
「ヤーナ。大丈夫だって。産んでやらなきゃアレーが泣くよ。産んだら乳離れするまで置いておいて、ロニアンドの待機家族の誰かに預ければいい」
「ああ。でも」
「いいんだよ」
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