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ヤーナが初めて会ったときは貴族の御曹司そのものの、いけ好かない子供であった。飢え、貧しさ、死の気配など知らぬ、子供らしい子供だった。タキは殺しも厭わず、モーセは平気で盗み、イザやヘラは生きるためなら体を売ることも恐れない。世間の影に生まれ、その中で育った彼らには瞳にも影がある。
コーランとオニスは裕福な家に生まれ、苦労などしたことがないはず。だが、二人の目にも影は存在した。ヤーナは海賊団に溶け込んでいく二人を見ながら、ずっと不思議に思っていた。
「ヤーナ。アレーの生死は全く分からない。ヴァルージアン殿下は父帝に訴えてくださったが、答えはないそうだ。今も拷問を受けているのか、地下深くに捕われているのか、死んでしまったのか。良い知らせを持ってこられなくて申し訳ない」
ヤーナはうちのめされていたが、今の彼女にはどうしようもない。ムーナルンドはスキーアラン四覇の一つ。一介の海賊如きに攻め落とせるものではないし、ムーナルンドの中枢に捕われているのなら盗むことさえ出来ない。
「いや、申し訳ないのは私の方だ。新入りで忙しかろうに、休暇を取らせてしまって」
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