俘囚の愛

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 海賊の世界では人の生き死になど当たり前のことだ。落胆したヤーナだったが、仕方ないことだと割り切って諦める。あまりに哀れな死に様だ。 「新入り武官は禁酒だと聞いたはずだったが」 「武官の法度なんてただの年下いびりだ。心得に過ぎないんだよ」 コーランがヤーナの杯に注ごうとすると彼女は首を振って拒否した。彼とオニスは杯に少し注いでちびちび舐める。 「よこせ」 ヤーナはオニスから瓶を引ったくるなり一気に飲み干した。二人にやけ酒と思われても構わない。 「オニス、それは女物ではないのか」  彼は庶民的な硝子細工の、青い花をあしらった綺麗な簪で髪を留めていた。コーランは黒い玉が付いているだけの簡素なもので留めている。 「ああ。綺麗だから。軍の支給のやつは落としてどこかにいってしまった。これは夜店で買ったんだ」 「夜店、か。女物でもよく似合う。相変わらずの洒落者だな、お前は」 下で騒ぎが聞こえる。ヤーナの知らせを待ち兼ねて船員たちが追い掛けてきたようだ。 「仕方ない。下へ行っておやり。皆、お前たちと会うのは久しぶりだろう」
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