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「芭蕉さん、失礼します」
見慣れた襖を開けると芭蕉さんは
まだ布団の中にいた。
いつもならここで蹴りの一発や十発は
やるけれどもうそんなことは出来ない。
去年の春
芭蕉さんが突然倒れて
今では布団から出られなくなっていた。
「芭蕉さん、お薬です」
僕はこの何気ない時間が好きだった。
そして芭蕉さんの事も─……
薬とお水を渡すと
芭蕉さんは少し悲しそうな笑顔と共に
薬を受け取りそれを口にした。
「曽良君お薬ありがとう。いつもありがとう」
…………
今日もいつもの薬の時間がきた。
僕は薬とお水を持って
芭蕉さんの部屋まで来た。
「芭蕉さん、失礼します」
もう誰もいない。
返事もない。
わかっている…
でも僕はこの時間が"好き"なんです。
-end-
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