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僕達は昼まで何をするでもなく、ソファに座ってテレビを見て、簡単な昼食を済ませてから、ピアノ部屋に入った。
僕はピアノ用の椅子に座りピアノに向かう。
そして、夏子はキッチンから持ってきたパイプ椅子に座って、僕の演奏が始まるのを静かに待っていた。
僕はピアノの上に置いておいた書きたての楽譜を譜面立てに立てた。
そして、最初の音にあわせて鍵盤に指を乗せ、そっと力を入れた。
その瞬間、部屋の中に柔らかなピアノの音が響いた。
ペダルを踏んでいるせいで、より一層ピアノの音は反響する。
僕は冒頭のゆったりとした部分をできるだけゆっくりと弾いた。
できる限りの感情と思いを込めることに、僕は全神経を集中させた。
やがて曲はクライマックスに近づいてゆく。
すると、僕の指は僕の意思とはほとんど関係なく、自然と強く旋律を奏で始めた。
どこまでもどこまでも力強く、僕の指は鍵盤を叩いた。
もしかしたら、ピアノが壊れてしまうのではないかと僕自身が感じるほどだった。
だけど、その間にも、必要に応じて弱い音が刻まれる。
二つの強さの違う音がうまい具合に折り重なって、一つの纏まった旋律を作り出していた。
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