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曲を弾き終えて振り返ると、夏子は涙を流していた。
どうして彼女が涙を流しているのか、僕にはわからなかった。
「どうしたの?」
僕は訊いた。
「ううん。何でもないの」
夏子はそう言って、右手の甲で涙を拭った。
そして、気持ちを落ち着けるように一度深呼吸すると、夏子は言った。
「ねえ、この曲はもしかして私のために作ってくれたの?」
「そうだよ」
僕は小さく頷いてから答えた。
夏子の言うとおり、この曲は僕が彼女のことを考えながら作った曲だった。
彼女のことを考えていると、僕の指が自然とこの旋律を奏でてくれたのだ。
「そうだと思った」
夏子はそう言って微笑んだ。
だけど、僕はその微笑みに違和感を覚えていた。
何がおかしいのかはわからないけれど、何かがおかしいような気がしていた。
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