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僕は彼女の肩を抱いていた腕を離し、彼女の正面に回った。
「顔をあげて」
俯く夏子に僕は言った。
だけど、彼女は顔をあげず、俯いたまま口を開いた。
「私はね、自分が不幸になるのが恐くてあなたを捨てようとしているのよ。本当に不幸になるはずなんてないのに、勝手に一人で怯えて。私のこと、許せないわよね。あなたに憎まれるなんて、辛くて我慢できそうもないけれど、私が悪いのだから仕方がないのよね……。ごめんなさい……」
夏子はそう言った後で、声をあげて泣き始めた。
両手で顔を覆い、大きな声をあげて泣いた。
僕は真正面から、彼女を柔らかく抱き締めた。
彼女を壊してしまわないように、できるだけ優しく抱き締めた。
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