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僕は柔道をやることに、喜びを覚えていた。
それは今まで僕がどのようなものからも得ることができなかった、一種の達成感のようなものだった。
ピアノも柔道と同じように、僕自身が決意して始めたものだったけれど、そこからは柔道をやるような達成感を得ることはできなかった。
少なくとも、当時の僕にとっては、ピアノから何らかの喜びを得ることはできなかったのだ。
たとえ新しい曲が弾けるようになっても、僕は大して喜びを感じることはなかった。
しかし、柔道において新しい技を覚えたとき、僕はおおいに喜びを感じた。
そして、その技で相手を投げ飛ばしたとき、僕の喜びはより一層大きなものとなった。
ピアノと柔道との間にどれだけの差があるのかは僕にはわからないけれど(当然、その当時の僕にもわからなかった)、僕は少なくとも柔道をやることによって喜びを得ることができたのだ。
もちろん、母との約束どおり、勉強を欠かすことはなかった。
もともと勉強はできない方ではなかったから、それほど苦になることもなかった。
結局僕は、中学校の三年間、一度も三十番以内から成績を落としたことはなかった。
それどころか、大抵の場合において、僕は十番以内に入っていた。
だから、いつの頃からか、母も柔道をやめろとは言わなくなった。
少なくとも、僕が約束を果たしている以上は、柔道をやめろと言いづらかったのかもしれない。
僕は母の希望する(決して僕が自分で希望したわけではない)、地元の一番優秀な公立高校に入学することができた。
母はそれで十分満足だったらしく、僕が高校に入って柔道を続けることに関しては、一切の口出しをしなかった。
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