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「それで、あなたが幼い頃に見た空というのは、どんな色だったの?」 夏子はもう一度僕と同じように空を見上げながら言った。 僕は空を見上げたまま夏子の問いかけに答える。 「そうだな、言葉ではうまく表せないよ。だけど、敢えて無理をしてでも言葉で表すとすれば、空色の絵の具に少しだけ青を加えて深みを出したような色だというところかな。とにかく、もっと濃い色だったんだ」 「それは田舎の空だったからではなくて?」 「わからない。もしかすると、そうなのかもしれない」 僕は答えながらも、そんなことはないのだという確信が心のどこかにあった。 僕が子供だった頃は、たとえ都会に出かけていったとしても、そこにある空は変わらぬ濃い青だった。 そして、僕が最近の故郷で見る空は、いま僕の頭上に広がっている空と同じような色をしている。 子供の頃に見ていた、あの深い青をした空ではなかった。
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