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夏子は僕の隣で、足をぶらぶらと揺らしていた。
まるで子供のように、飽きることもなく揺らしていた。
三十歳の女性の行動としては少し幼稚すぎるような気もしたけれど、彼女に関して言えば、その行動にほとんど違和感はなかった。
むしろ、そうしていることが、すごく自然に思われた。
おそらく、彼女が僕の演奏を聴いているときに感じるであろう様な感覚の中に僕はいた。
それは決して正しいあり方ではないのだろう。
だけど、それでも違和感がないのだ。
むしろ、それが正しいような気さえしてくる。
だけど、すべての真実は、あくまでも『何となく』の向こう側にあるのだ。
僕達は必死にもがきながら、その真実を覗こうと躍起になっているのだ。
だけど、僕達が躍起になればなるほど、『何となく』は僕達の前から真実をより一層覆い隠してしまうのだ。
僕達は生きている限り、いつまで経っても真実にたどりつけないのだ。
おそらく。
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