1110人が本棚に入れています
本棚に追加
夏子の車は正門からほど近い駐車場に停めてあった。
僕達が学生であった頃には、こんなところに駐車場などなかった。
たしか、この場所には古ぼけた小さな定食屋があったはずだ。
その店は老夫婦が二人で経営していた。
決して大きな店ではない。
十人も入れば満員になってしまうような店だ。
僕は何度かその店に入ったことがある。
店内はどこか埃っぽくて、決して清潔な感じではなかったけれど、出される料理の味は悪くなかった。
どこか懐かしい味のする料理ばかりだった。
だけど、今はその場所に定食屋の面影はない。
そこは完全にアスファルトで塗り固められて、何台かの車が停まっている。
定食屋があったことすら微塵も感じさせない。
あの老夫婦はどこに行ってしまったのだろうと僕は思った。
最初のコメントを投稿しよう!