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夏子の車は正門からほど近い駐車場に停めてあった。 僕達が学生であった頃には、こんなところに駐車場などなかった。 たしか、この場所には古ぼけた小さな定食屋があったはずだ。 その店は老夫婦が二人で経営していた。 決して大きな店ではない。 十人も入れば満員になってしまうような店だ。 僕は何度かその店に入ったことがある。 店内はどこか埃っぽくて、決して清潔な感じではなかったけれど、出される料理の味は悪くなかった。 どこか懐かしい味のする料理ばかりだった。 だけど、今はその場所に定食屋の面影はない。 そこは完全にアスファルトで塗り固められて、何台かの車が停まっている。 定食屋があったことすら微塵も感じさせない。 あの老夫婦はどこに行ってしまったのだろうと僕は思った。
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