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「ねえ、ここは昔、定食屋だったよね?」 僕は訊いた。 「そうだったわよ」 「いつの間に駐車場に変わってしまったのだい?」 「さあ、いつだったかしら。だけどずいぶん前の話よ」 「定食屋の爺さんと婆さんはどこに行ってしまったのだろう?」 「亡くなったのよ。二人とも」 夏子は声のトーンも変えずに答えた。 「お爺さんが亡くなって、その数日後にお婆さんも亡くなったらしいわ。それからしばらくしてここは駐車場に変わったのよ」  彼女は言いながら、どんどん車の方に向かって歩いていく。 まるで、定食屋のことなんか興味ないとでも言うような様子だった。 そして彼女は赤いスポーツタイプの車の前で立ち止まった。 僕には車の名前はわからない。 僕はそういうことについて詳しくないのだ。 そもそも車などに興味がないのだ。 それは、夏子が定食屋のことに興味がないのと同じようなものだ。
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