20

8/12
前へ
/371ページ
次へ
彼女は車のドアに付いている鍵穴にキーを差し込むと、ロックを解除した。 それからゆっくりと慎重にドアを開けた。 「乗って」 夏子が僕に向かって言った。 僕は頷いて、助手席側に回りドアを開けてから車に乗り込んだ。 車の中には、芳香剤が漂わせるレモンのような少し甘酸っぱい匂いが満ちていた。 サッパリとした、女性の香水のような香りで、それほど嫌な匂いではない。 シートは柔らかく、座り心地は上々だ。 夏子も運転席に乗り込み、それから僕の方に身体を倒して、ダッシュボードを開けた。 そして、ダッシュボードの中から青いサングラスを取り出して、それをかけた。 正直に言えば、彼女の顔に対してそのサングラスは少し大きすぎるような気がしたし、彼女の美しい顔に対して少し不恰好すぎるように感じられた。 だけど、彼女はそんなことを気にもとめていないようだった。
/371ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1110人が本棚に入れています
本棚に追加