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「わかっているわ。だけど、私がクラシックの音楽を聴くのまで嫌がるのはやめて欲しいのよ」 夏子は怒りをあらわにしてそう言い、さらに言葉を続けた。 「別に私は彼に対してクラシックを聴くことを強要したりしたことはないの。だってそうでしょう。音楽というのは本来楽しむべきものだもの。音を楽しむと書いて音楽。だから楽しむことができないのであれば聴かなければいい。そう思わない?」 「確かに君の言う通りだ」 「ただ、楽しめる音が人それぞれ異なっているだけ。彼が、自分は歌詞のある音楽しか楽しめないというのならば、彼はそれを聴いていればいいわ。私だってそれを止めたりはしない。だけど、彼は私が家の中でクラシックの音楽を聴くのを本当に嫌がるの。ピアノであろうとバイオリンであろうと、何だって彼はダメなのよ」 夏子はそこまで言って一呼吸置いた。 だが僕が口を開く間もなく、彼女は続けて口を開く。 「私だって気を遣って、できるだけ彼のいない時間に聴くようにしているし、彼がいる時にはできるだけ小さな音で聴くようにしているの。だけど、それでも彼は許してくれないのよ。仕方なく私は車の中で聴くの。車の中にだけは彼が入り込んでくることはないからね」 「大変だね」 僕は言った。 それ以上の感想は沸かなかった。 僕は音楽を聴く時に誰かに干渉されることなどないし、これまでにもそのような経験をしたことはない。 僕は好きなときに好きな音楽を聴く。 だから、彼女がどのように感じるのか、その詳細までも感じ取ることはどうしてもできないのだ。 夏子はしばらく何かを考えるように黙り込んで、「ごめんなさい、愚痴をこぼしてしまって。あなたにこんなことを言ってもどうにもならないのにね」と謝った。 僕は、「気にしなくていいよ」とだけ言った。
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