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夏子は前を見つめたまま、口も開かずに車を運転している。 車の中には相変わらず芳香剤の香りが漂い、クラシックの音楽が流れていた。 スピーカーから流れ出す曲のいくつかは僕の知っているものだったけれど、ほとんどが僕の知らない曲だった。 だけど、知っているものであろうと、知らないものであろうと、そのどの一つとして僕を不快にさせるものはなかった。 太陽が西の方に傾きかけていた。 時計を見ると、午後三時を少し回ったところだった。 夏子はそれからしばらく車を走らせて、国道脇にあるファミリー・レストランの駐車場に車を入れた。 バックではなく、頭から勢いよく突っ込む。 おそらく、これがいつもの彼女の駐車方法なのだ。 思い返してみると、大学近くの駐車場に置いてあったときも、この車は頭から突っ込んであった。 僕ならばそんな停め方はしない。 いつだって、すぐに出られるようにバックで駐車するのだ。 だけど、どちらで駐車したところで、たいした違いはない。 入れるときに時間がかかるのか、出る時に時間がかかるのか、どちらかの問題であって、総合してみて見れば両者の間にたいした時間の差はないのだ。
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