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「たとえ僕が君の夫のことをよく知っていたとしても同じことだよ。今度は両方の肩を持たなければならない。だけど、それはできないことだ。君は離婚したい、君の夫は離婚したくない。君達は正反対のものを求めているんだ。そして僕は中立的な第三者としてそこにいなければならない。そして君たちの妥協点を探らなければならないんだ。だけどそれはとても骨の折れる作業だし、上手く妥協点を見つけられる可能性なんてほとんど無いに等しい。どちらかの肩を持つというわけにもいかない」 夏子は僕の言うことを黙って聴いていた。 「いいかい。こういうものは本来的に第三者が干渉できる問題ではないんだ。当事者同士で解決しなければならない問題なんだ。そこに第三者が介入することは、問題をより複雑にして、良くない方向に導くだけなんだ」 「そうかもしれないわね。おそらく、あなたの言うとおりだろうと私も思うわ。だけど、それでも私はあなたの意見が聴きたいの。あなたに背中を押して欲しいのよ」 「君の言い方だと、要するに僕に離婚をするように勧めて欲しいわけだよね。だけど、僕にはそんなことはできない。きっと僕がそうすることによって君は覚悟を決めることができるのだろうけれど、君の夫は訳もわからないままに傷つかなければならない。その傷には少なからず僕の責任が発生する。僕はその傷の責任を負えるほど強い人間ではない」 僕はそう言って、水を少し飲んだ。 夏子は納得したのか、小さく頷いた。
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