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だけど、僕は迷っていた。
その壁を越えるべきか越えないべきかを、ただひたすら悶々とした気持ちで悩んでいた。
たとえ僕達が壊れてしまうのだとしても、それを越えてしまいたいという願望が、少なからず僕の中にはあるのだ。
おそらく、いや確実に、僕は今でも彼女のことを愛している。
僕も彼女と同じなのだ。
だけど、僕は一生懸命にその衝動を押しとどめた。
僕達はその壁を越えてはならないのだ。
少なくとも今はそれを越える時ではないのだ。
たとえ越えるとしても、それは越えるべき時に越えなければならない。
そうしなければ、僕達は粉々に壊れてしまって、跡形も残らないだろう。
ウェイトレスが僕達の注文した料理を持ってきて、テーブルの上に並べた。
僕も夏子も無言でその料理に手をつける。
だけど、僕にはその味を感じることすらできなかった。
僕は揺れているのだ。
どこまでも揺れているのだ。
まるで宙吊りにされているように、足下も定まらず、ただフラフラと不安定に揺れているのだ。
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