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「どうかしたの?」
夏子が立ち上がり、僕の方に近づきながら言った。
「いや、何でもない」
僕も立ち上がり、夏子に近づく。
そして、僕はそっと夏子の身体を抱きしめた。
夏子の柔らかい身体は、僕の腕の中にすんなりと納まった。
耳元でかすかな息づかいが聴こえる。
夏子も少し興奮しているのか、あるいは緊張しているのか、だんだんとその息づかいは荒くなっていく。
「何が起こっても、君は大丈夫?」
僕は訊いた。
「何が起こっても、私は大丈夫」
夏子は答える。
「全てが壊れてしまっても?」
「全てが壊れてしまっても」
「全てを失ってしまっても?」
「あなた以外の全てのものを失ってしまっても」
夏子は答えると、腕に力を入れて、僕にしがみついた。
僕はそのまま黙って頷き、彼女を抱え上げて、ベッドに運んだ。
それから、僕も服を脱いでベッドに入る。
もう、僕は何も恐くはなかった。
壁を乗り越える覚悟はできている。
僕は自分自身で作り上げた頑丈な壁を、これから大きなハンマーで打ち壊していくのだ。
まるでベルリンの壁が壊された時のように。
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