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僕はベッドから這い出して立ち上がり、一度大きく伸びをしてから電気を点けた。 僕の部屋のカーテンは遮光カーテンで、ほとんど光を通さないから、カーテンを閉めている限り、部屋の中はほとんど夜と変わらないくらい真っ暗なのだ。 外が晴れているのか、曇っているのか、雨が降っているのかすらわからない。 僕はソファに腰を下ろし、タバコに火を点けた。 最近、家にいるときはロングピースではなく、缶ピースを吸う。 缶に入った、五十本入りの、フィルターのないピースだ。 僕はこの缶を開封した時の香りが何とも言えないほどに好きだ。 甘い香りが辺りに漂い、優しく鼻腔を擽る。 おそらくロングピースと同じ葉を使っているのだろうけれど、缶ピースの煙の香りはロングピースのそれとは違って、もっと濃厚で甘いものだ。 そして、僕はその煙の香りもまた好きだった。
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