29

7/11
1107人が本棚に入れています
本棚に追加
/371ページ
「私ね、離婚したの」 夏子は唐突に言った。 何の感情もない機械のように、抑揚もなく、完全に無機質な声でそう言った。 「そうか。ちゃんと離婚が成立したのか」 「そうね。ずいぶんもめたけれど何とか話はまとまったわ。昨日の話よ」 「そうだったのか。こんな時に何と言ったらいいのかはわからないけれど、とりあえず『おめでとう』とでも言えばいいのかな?」 「それで、十分だと思うわ」 夏子はそう言って、電話の向こう側で小さく声をあげて笑った。 それから続けて、「あなたはこの三ヶ月で何か変わったことがあったかしら?」と言った。 僕は少し考えてから「恋人ができた」と答えた。
/371ページ

最初のコメントを投稿しよう!