29

9/11

1107人が本棚に入れています
本棚に追加
/371ページ
「ああ、そうしたいと思っているよ。それよりも、君はこれからどうするんだい?」 「そうね、子供と二人、しばらく実家で暮らそうと思っているわ」 夏子はそう言うと、再び黙り込んだ。 僕も黙ったまま、彼女が再び口を開くのを待つ。 僕たちはお互いに受話器を握ったまま、五分ほど黙ったままでいた。 そして重い沈黙の後に、夏子がゆっくりと喋り始めた。 「ねえ、この前あなたと会った後、しばらく考えてみたの。あなたが言っていた、あなたの世界と私の世界について。おそらく、あなたの言っていたことは正しかったのだと、今は思ってる。あなたに抱かれたことを後悔しているとか、そういうことではないの。ただ、私とあなたは、今は確実に別々の世界に生きているのだということがわかったの」 「うん」 僕は相槌を打つ。
/371ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1107人が本棚に入れています
本棚に追加