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そうだ、僕は淀んでいたのだ。 僕の流れは、完全に淀んでいたのだ。 そして、そのせいで僕の目も濁っていたのだ。 だから、僕は空の青を感じ取ることができなかったのだ。 思わず目から涙が溢れる。 なぜだかわからない。 ただ勝手に涙が溢れ出してくるのだ。 隣に立っている美奈が心配そうに僕の顔を覗き込む。 「ねえ、どうかしたの?」 「いや、大丈夫だよ。ちょっと昔のことを思い出していたんだ」 「辛いこと?」 「いや、そうではないよ。幸せだった頃のことさ。それよりも、僕はいま、曲を作ることができそうな気がするんだ。ソファに座って聴いていてくれないか?」 「わかった」 美奈はそう言うと、ソファにゆっくりと腰を下ろした。
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