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「君はきっと僕の作ったあの曲に過大な評価を与えていただけなんだよ」
僕が言うと、夏子は不満げな表情を浮かべたまま、「どうして?」と言った。
「だって、僕は小学生の頃に、ほんの何年間かだけピアノを習っていただけなんだ。その時だって、まともに練習すらしていなかった。今の僕は『乙女の祈り』を弾くのがやっとなんだ。そう言えば僕のピアノの実力がわかるだろう?」
夏子は僕の言葉に、一瞬ビクッと小さく身を震わせた。
喋っているうちに僕は興奮し、そのせいで声が大きくなっていたからだろう。
それに気づいた僕は、一度大きく深呼吸して気持ちを落ち着けてから、言葉を続けた。
「とにかく、あの曲は、技術もろくに無い僕が作った曲なんだ。そんなに素晴らしい曲であるはずがない。きっとあの曲には、もとから何かが欠けていたんだよ」
僕が言った瞬間、夏子は僕の言葉の全てを否定するかのように、激しく首を振った。
それにあわせて、彼女の艶のある長い黒髪も左右に揺れた。
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