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だけど、実際のところ、僕は彼女の家に行ってピアノを弾くほどの体力も無ければ、気力も無かった。
とにかく一刻も早く寝たいのだ。
何としてでも、夏子の願い事を断る必要があった。
だけど、おそらく彼女は、僕が彼女の願い事を断ることを認めてはくれないだろう。
それは、彼女の顔を見てもわかる。
彼女の視線は、僕をしっかりと捕らえ、決して逃してくれそうになかった。
だとすれば、僕に残された道は、夏子の家に行ってピアノを弾くか、あるいは日にちをずらしてもらうかのどちらかしかなかった。
僕は少し考えて、後の方の選択肢を選ぶことにした。
もしも今日でないのならば、夏子の家に行ってピアノを演奏するくらい何てことはないのだ。
僕にとって都合が悪いのは、彼女の指定している日が今日だということだけなのだから。
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