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夏子はしばらくの沈黙の後に口を開いた。 「あのね、たしかに進藤君の言いたいことはわかるの。私だって徹夜くらいしたことがあるし、その次の日がどれくらい辛いかもわかっているつもりよ。だけど、進藤君が一刻も早く眠りたいのと同じくらい、私だって一刻も早くあなたの弾くあの曲が聞いてみたいのよ」 夏子はそこまで言うと、何かを企むような含み笑いを浮かべて、言葉を付け加えた。 「そこで、提案なんだけど……」 「提案?」 僕は訊いた。 「あのね、進藤君はこれから家に戻って寝て欲しいのよ。今日の残りの授業のノートは私が全部とっておくし、レポートも提出しておくわ。もちろん、出席カードも出しておくわ。その代わりに、今日ピアノを弾いて欲しいのよ。悪くない提案でしょう?」 夏子は言った。
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