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空は闇色に染まった。
醜い塊が世の中をうろつく時間。
光が苦手らしいその塊達は、月すら隠れる時間のみ活動する。
血生臭い腐敗臭を漂わせ、体中の血液が今にも噴き出しそうな程血管は肌から透けて見え、まるで幽霊のように意思がなくたださ迷っている人間─…いや、かつて人間であった者。俗にいう『ゾンビ』という存在だ。その鈍い音のする肉体を地面から起こし、ある一人の少年を標的に襲い掛かる。
「…またか」
少年は静かに持っている貴金属の銃を片手に、襲い掛かるゾンビの頭を狙い、一発。
独特の射撃音と、肉を貫く鈍い音と共にそのゾンビは倒れ込み、かつて人であった証拠に頭からは赤い血が流れる。それを見る度に心が痛む。
どうして、ゾンビというものになってしまったのだろうか、この人達は。
まだ自分の周りにちゃんと人間が数人居た頃は、ゾンビとなったのは何らかのウイルスに感染したせいだと言っていた。だが、空気感染にしては自分だけならなかったのでおかしいし、空気感染でないにしてはこの広がり様はおかしい。だから、ウイルスのせいなのかという選択肢の雲行きは怪しい方向へと誘なわれる。だとしたら、一体何なのかと言われると、その答えもない。
もう、この世に生き残りは自分しかいないのだと、少年は静かに涙を堪える。
そう考え込んでいるうちに、その醜い姿のゾンビは複数集まってきており、はっと気がついた時には周りを囲まれていた。ヤバい、と必然的に諦めが脳を掠めた時だった、その出来事は。体中が温かい空気に突如包まれた気がして辺りを見回すと、自分の周りを赤い光が守るように包んでいる。左薬指にはめていた指輪がきつくなり痛みに視線を送ると、埋め込まれている赤いガーネットの宝石が強い光を放っている。
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