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「…何だよこれ。何が起こってんだ…?」
赤というよりも柘榴色に近いその強い光によって、醜い姿のゾンビ達は怯む。光が苦手であるという事を断定出来る程、戸惑いと恐怖に煽られ何も出来ない様子である。だが少年の方も、突然光の渦に包まれた事による驚きと、光の正体・今何をすべきなのかという疑問の全てに思考は付いていかず、救いの光であろうこの出来事の意味が無くなるように、何も出来ないでいた。
その時だった。
「ようやく見つけたぞ。─…主(あるじ)様」
少年の背後から聞こえてくる謎の声。
その声は低く、少し掠れている。
だが、得体の知れないはずのその声は、優しさを含み、久々の別の声だという事もあって何故か安心させられる。少年はその声の主を探すようにゆっくりと後ろを振り返る。だが暗さと逆光のせいで影程度にしか見る事は出来ない。突然現れたその男は、少年を包む光の渦により怯んだゾンビ達に向かって、持っていた長く細い剣を振り下ろす。そいつらを倒す事には慣れている様子で、正確に急所である頭や左胸を突き刺し、返り血を浴びようが動じない。少年はただ見ている事しか出来ず、じっとその様子を伺う。たった数秒で、少年を囲んでいたゾンビ達を全て殺し、その合図かのように光の渦も消える。
少年は、久々に見た普通の人間の生き残りである男に出会えた感動から思わず笑顔を零した。
「助かった!まだ人が居て良かった!!」
だがその男は、そんな様子の少年を前に、冷静な表情のままだった。その男からしても、まだ人間でいる少年と出会えたのだから喜ばしいはずであるのに、何故かその少し細い瞳を辛そうに伏せ、言葉を発した。
「……ラルドだ。お前は?」
「え…?」
「名前」
「あ…ああ、ロックス」
ラルドと名乗ったその男は、少年の名を聞くと静かに頷き、相変わらずの低い声で言葉を続ける。
「王家の者ではないのか……あれはただの噂か。まぁいい。ロックス、これよりお前の事は私が守る」
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