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天候は灰色で覆われた曇天。
場所は長野県中部の伊那。
木曽山脈と赤石山脈に挟まれてはいるが、山脈が多い長野において数少ない平地である。そこには多数の人がいた。しかも濃緑色の服──野戦服を身に纏い、銃をかついだ人が。むろん、そんな危なっかしい物を持った人がその地区に住んでいる一般市民なわけがない。彼らは日本軍第3方面軍──主に中部を担当──所属の第23連隊である。
今、彼らがいる場所はピリピリとしたなんとも言えない緊張感が漂っていた。殺気だってもいるのだろう。なぜなら、ここ、伊那が現時点での最前線だからである。
何個もの偽装テント(武器弾薬などを収納)が張られているのだが、それらのテントから離れた場所に完全武装の兵士数人が立っているひときわ大きなテントがあった。そこには『第23連隊野戦司令部』とかかれたプレートがかけられていた。
その野戦司令部の中には数人の軍人がいた。
「連隊長、まだ増援はこないのですか?」
大尉の階級章を付けた大柄な男がじれったいと言わんばかりに声を上げた。
「まだみたいだ。やはり移動に苦戦しているらしい」
連隊長は苦々しげに口を開いた。
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