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少尉が言うなり少佐は何かを考え始めた。その表情は真剣そのものだ。
この雰囲気に飲み込まれて松田少尉は何も話せない。そして、唐突に、
「このトレーラーの音声集積マイクが捉えたのなら……マズいなぁ」
軽く舌打ちをする。
「どうしたのですか?」
おずおずと松田少尉は聞いた。
少佐は日本刀の柄を握りしめると、静かに言った。
「連隊が戦闘を開始したに違いない」
盛大に降り注ぐ雨。
閃光と爆音を轟かせて飛び交う砲弾。
その間を縫うように歩兵が自動小銃を抱えて走っていく。
大地はえぐれ、緑の野原は跡形もなく消え去り、その後に残るのは銃弾の空薬莢と無数の屍。
「第2中隊前進! 第1戦車中隊砲撃始めぃ!」
連隊長がインカムを押し付けながら怒鳴った。それと同時にここから数キロも離れていない場所から耳をふさがんばかりの砲撃音が轟いた。
カタカナのコの字に隊列を組んだ戦車中隊が一斉に砲撃を加えたのだ。
「隊長! 目標に着弾!」
「右前方から敵2接近!」
狭い車内では3人の戦車兵が怒鳴りあいながら、敵にむけて砲撃を行っている。
歩兵が目の前の敵に自動小銃を乱射する。白い2枚の羽をもつ異形のモノ《天使》に向かって。
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