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「私は神。神の末裔なの」
そう言ったのは幼い声。
少女は12、3歳といった位の幼い姿で、美しいブロンズの髪を襟足のところで二つに括っている。小さな胸元には銀色に輝くクロスのネックレス。その中心で漆黒に輝くオニキスのストーン。
まだ汚れない純粋な気持ちを持っているはずの少女。神の末裔などと名乗るにあたって、後ろめたい何かがあるとは思えない。だが大人達はその言葉を軽々と言う少女を気味悪がって、魔女だの神に謝れだの罵る。だがそれでも少女は神の末裔だと名乗り続けた。
ある日大人達に囲まれ、殴る蹴るなどの暴力と罵声を浴びていた少女に、助けるかのように一人の老人が手を差し延べた。
「大丈夫かい、お嬢ちゃん?」
それだけ地獄を見たはずの少女の瞳は汚れも揺るぎもなく、手を差し延べてくれた老人を真っ直ぐ見つめる。
「ありがとうお爺さん。お爺さんは優しいから言うね。あのね、…」
老人の差し延べてくれた手を握り、少女は悲しそうに瞳を滲ませ言葉を紡いだ。
それと同時に空は曇り、今にも雨が降りそうだった。
老人は、語りかけてくる少女の言葉にただ耳を傾けていた。
「もうすぐ、みんな死んじゃうの。人間はいなくならなきゃいけないって。人間は美しい海も、寛大な大地も、透き通った空も汚しちゃったから。」
「……そうじゃな。人間は地球に重い罪を犯したからな」
「うん。…神様が私に言うんだ。風は人間をさらい、黒い雨は人間を焼き、雷は人間を貫き、赤黒い大地に引きずり落としされる、って」
「自然が怒っておるのか」
「そうなの!私、人間は嫌いだし、そうなっても自業自得だって思うの。けど、一人は嫌なの!お爺さんみたいに優しい人も居るし、そうなりたくないの……だから、みんなに呼びかけているの……」
「何と呼びかけているのじゃ?」
「もう、自然を汚さないでって。そしたら神様は許してくれるって言ったから」
「…良い行いじゃ、わしも手伝おう」
既に終焉を迎えそうなこの地球(ほし)。
豊かさ・便利さを求める人間の為だけに死んでいく木。美しい海は汚れ、美しい海を保つ為の魚は飢え、溢れるゴミを燃やし裂かれる大気。
現れた救世主となったこの少女も
醜い人間の“差別”の対象にされ
この後『自分を神だと名乗る魔女』と罵られ
消される事となる。
神に処刑されるとは知らずに。
終
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