22人が本棚に入れています
本棚に追加
スイーツの憂鬱。
パティシエの作るスイーツにはランクがある。
ベーシック、セレクト、ハイクラス、マスター、シークレット、レジェンド。
ランクが上であればある程、取得は難しく高値で取り引きされる。
俺はシガール・オゥ・ショコラ、レジェンドランクだ。
ウチのパティシエは全てのレシピを習得しているのだが、レシピは毎週増える。
新しいレシピが出る度にそいつに掛かり切り。
俺は放置される。
「なぁ、」
「あー、もうちょっと待って」
聞いているのか聞いてないのか、何を話掛けても同じ返ししかしてこない。
「俺ちょー暇なんだけど」
「ああ、もうちょっとだから」
ずっとコレの繰り返し。
毎週毎週…。
いい加減うんざりだ。
そうして増えたレシピのせいで、俺を相手する時間も減るくせに。
呆れて厨房から出た。
どうせ俺なんか見てないんだから、出てったって気付かないんだろ。
何だっていいんだろ、俺なんかじゃなくたって。
【レジェンド】なんて、パティシエに相手にされない俺には無意味なランク付けだ。
「シガオ、出来たぞ、千歳飴」
何でもない顔をして、パティシエは厨房から出てきた。
横には瀬の高い和服姿の男が立っていた。
「そう、良かったね」
それだけ言って店から出て行こうとすると、パティシエは俺の腕を掴む。
「何処行くんだ?」
パティシエは眉間に皺を寄せながら俺に問う。
ただ苛々した。
「アンタのいない所だよ」
パティシエにとって、スイーツのレシピはただのコレクションみたいなモンなんだろう。
それ以上もそれ以下でもない。
だけどスイーツは違う。
「は?」
「じゃぁな」
パティシエの手で生まれたんだ。
刷り込みだと言われたって、パティシエしか見えないのが当然だろ。
「それを俺が許すと思ってるなら、今すぐお前を灰にする」
パティシエは無表情で、俺にそう言った。
最初のコメントを投稿しよう!