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「はぁ~…」
溜息を吐いて、椅子に腰掛ける。
シガオは待ってましたと言わんばかりに俺に駆け寄ってくる。
「お疲れ様」
そう言いながら背中から抱き着いてくる。
前は一層疲れたその行為が、今はただ癒しになる。
「疲れたよ」
「……もう『余計疲れる』って言わないんだね」
嫌味のように言われたので、手を退けた。
それなのにまた背中を覆うように抱きしめられた。
人の気も知らないで。
と、言いかけた言葉を飲み込んだ。
「疲れるよ、お前といるの」
椅子の背もたれにもたれ、顔を上に向けると、至近距離にシガオの顔。
じっと見つめていると、シガオの顔がニッコリと微笑む。
「なんで?」
「パティシエが自分の作ったスイーツに手出すワケにはいかねぇだろ」
「じゃぁ俺が他の誰かのモノになってもいいの?」
「それを俺が許すなら、お前はとっくに此処にはいない」
人には譲れない。
そのクセ、自分のモノにも出来ない。
矛盾、葛藤……。
そんなモノに捕われているのは至極疲れる。
「俺はアンタのモンだよ。とっくに……」
口づけると、酷く甘かった。
甘い甘い、俺のシガール・オゥ・ショコラ。
「だが俺はお前のモノにはならない」
「なんで?! ここまでしといて!!」
「自分が作ったスイーツは可愛いからな」
「それって自分の作ったスイーツとなら誰とでもするってこと?!」
「俺はそんなお手軽じゃない」
一目惚れしたスイーツ。
どうしてもこの手で作ってみたかった。
そして何処に出しても誇れるスイーツにしたかった。
(実際作ってみたら更に惚れて、結局何処にも出せないスイーツになった)
俺のモノだ。
誰にも譲らない。
シガオはフワッと微笑んで、それから一言。
「やっぱりアンタ、俺が好きなんじゃん!!」
「嫌いだなんて一言も言ってねぇだろ」
「じゃぁ好きって言えよ!!」
「だが断る」
「はぁ?!」
絶対に言ってやらない。
お前を好きだと思ってろ。
俺が好きだと言ってろ。
そしてずっと、俺の側に居ろ。
お前の甘さを知ってるのは俺だけでいい。
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