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「それでは、理由になりません」
「命令に理由はいらん」
一蹴されてしまった。
しかし、生来の負けず嫌いがなおも田村を食い下がらせる。
「ではなぜ、養子をお望みの春日さんがこちらにいらっしゃらないのですか。
ご本人かいらして直接話すのが礼儀ではないのですか」
「銀、日本じゃそんな理屈は通用しねぇんだよ」
「田村くんもだいぶフランスかぶれになってきたようだね」
榎本総裁が嬉しそうに、またヒゲをなでた。
なんでもあのヒゲはオランダに留学した際に伸ばし始めた彼の決意であるらしい。
村の年寄りでもないのにヒゲを蓄えるなど、武士の所業ではない。
多分そのように言えば、私は和魂洋才の武士だからね。などと茶化すに決まっている。
「田村君、春日さんは今松前だ。
どうしても本人と話がしたいのなら、明日松前に戻る人見さんに同行して詳細を聞くといい。
ただ、そこに田村くんが期待するような答えが返ってくるからわからないがね」
榎本は隣に立っている土方に同意を求めた。
土方はうんともすんとも言わず、田村を見つめた。
同じように田村も土方を見返す。
以前なら決してしてはならない行為だったが彼は何も言わなかった。
田村には、土方の白と黒とのコントラストが、強い枝をもつ白梅のように感じられた。
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